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シヴァという世界観

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インドが世界中から不思議がられ、ときに蔑まれる理由もあるいはシヴァ神にあるのかもしれない。

その姿は悪魔か妖怪を思わせる。青い肌、ピラミッド型に結わえ上げた蓬髪、コブラの首飾り、虎皮のふんどし、三叉戟、弁弁太鼓、…まさに異形である。

神話に伝えられた性格も普通ではない。若い頃はヴァラナシの火葬場を棲家とし、悪鬼たちを引き連れ暴れまわった。癇癪持ちで喧嘩っ早く、わがままで天邪鬼、怒らせたら敵を徹底的に殺戮し尽くし、その死体の上で勝利の破廉恥ダンスを繰り広げる。まさしく悪魔の所業である。

一方で、シヴァはしばしばリンガ(男根)として描かれ、インド中のいたるところにそのあらわな姿をさらしている。しかも、その下にはヨーニ(女陰)が表現されている。そして人々がこれをまつり、真っ白のミルクで一対の性器を清めるとき、それはシヴァの精液とパールヴァティーの愛液して崇められるのだ。破廉恥を通りこしてシュールでさえある。

シヴァの持つもっとも重要な性格は、「サマーディー」にあるといえるだろう。「サマーディー」とは、日本語で「三昧」を意味する。「三昧」は、「パチンコ三昧」「釣り三昧」などと、どちらかといえば悪い意味で使われるが、これはもともとシヴァ神の常態を表す言葉である。つまり、シヴァ神は極度の凝り性だといってよい。それが瞑想にせよセックスにせよ、シヴァは何億年という時間をかけて没頭するのが常である。

その姿はしばしばリンガに例えられる。そこから尽きることなく生命を生み出し、そして破壊するという、この世の根源、あるいは原理を意味しているとされる。シヴァは万物を生み出し続ける性器そのものだといってもよいだろう。

シヴァの起源ははるか太古の原始生活にまでさかのぼるといってよいだろう。例えば日本にだって男根崇拝の時代があった。その名残が道祖神という形で今に伝えられている。しかし、インドの特異性は、男根崇拝の思想をさらに発展させ、ついには性魔術を基盤とするタントラ思想を生み出したことにある。インド北部のカジュラホーには、タントラ思想を具現化した有名な性交彫刻(ミトゥナ)が多数あるが、そこに表現されているのはこの世に偏在する生命の力そのものだ。こうした生命の働きが、シヴァリンガとヨーニの結合という、象徴的な形として表現された。

タントラは他方、仏教と結びついて密教を生み出し、現在はとくにチベットとここ日本に強く息づいている。日本の有名な聖地では高野山と比叡山があげられるが、じつはお稲荷さんもタントラの思想を強く受け継いだものである。中国では陰陽の思想が根源にあるが、これもまた、タントラとの共通点を多く持っている。もしかすると、中国の仙人というのはインドのサドゥーだったのではないだろうか。例えば、中国古代の聖人である墨子がインド人であったとする説もある。十分にありそうなことだ。

話をシヴァに戻す。シヴァの数多くある別名の一つが「マハーカーラ」である。「偉大なる黒」を意味する。黒は先住民の肌の色にも通じるもので、シヴァの起源もそこにあるとされる。しかし、「カーラ」の意味するものはそれだけではない。もう一つの意味は「時間」である。だから「マハーカーラ」とは「時間を超越する者」あるいは「時間を作り出す者」でもあり、分かりやすくいえば「永遠」である。

「カーラ」をもっと詳しく見れば、そこには闇と夜がイメージできる。ヒンドゥー暦では、とくに月のない闇夜をシヴァの夜と定め、これを祭る。シヴァの大祭シヴァラットリーも「シヴァの(偉大なる)闇」を意味している。

闇のもう一つの意味は、前に書いたように先住民に関連がある。それはまた、先住民の住む山をも意味する。山は中国の風水においても「陰陽」の「陰」であるそうだ。シヴァが先住民と関連があるのは、そのまたの別名を「パシュパティー(野獣の王)」と呼ばれることからもはっきりしている。

シヴァから想起するイメージはときに恐ろしく、不気味で、不安をもよおすものかもしれない。でも、人間には元来、そうした性質のものにかえって惹かれる傾向もある。それはただの怖いもの見たさではない。自然という、人知を超えた存在に対する畏敬の念が基本にある。その自然の働きを具現化したものがシヴァである。

だから本来、アニミズム的信仰を持つ世界の諸部族の神々には、シヴァのような存在は珍しいものではなかった。シヴァは「荒ぶる神」といわれるが、自然とは、豊かなものである前に、まず人間には脅威であった。それが長い年月を経て、だんだんと文明が進み、自然を従属させようとする動きが強まっていった。その過程で多くの神々が死んでいった。とくにヨーロッパでは、「魔女狩り」の名のもとに、多くの神々が滅ぼされていった歴史がある。

ところがインドでは、こと宗教に関して、まるで時代を逆走するかのような事態がおこった。詳しくは書かないが、アーリア族が連れてきた古代ヴェーダの神々(これらもまた自然崇拝には違いない…)が時代とともに落ちぶれ消えていったのとは逆に、それまで原始先住民族が細々と伝えていた怪しげな神々が時代の表層に浮き上がってきた。それらはヴェーダ思想とも交じり合い、やがてタントラ思想へと成長を遂げた。

タントラ思想についてはすでに簡単な説明をした。男性原理と女性原理の結合から生まれる根源の力を扱う実践宗教であり、その象徴としてインドを特異な性質の国に変えた存在こそが、シヴァであった。

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人でありながら自らシヴァ神になろうとする男たちがいた。
「サドゥ 小さなシヴァたち」紹介ページをぜひご覧ください。

サドゥ 小さなシヴァたち


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