2世紀、ウッタルプラデシュ州のクベーラ(ニューデリーの国立博物館)
まったく異形である。皮膚は黒く、腹は突き出し、四肢のバランスもなんだかおかしい。クベーラはヤクシャの王である。ヤクシャというのは夜叉のことで、つまり鬼族の守護神みたいな存在だ。そのヤクシャの王であるクベーラは、まさしく太古インドの支配者のような存在だったかもしれない。
インドの神様には、先住民系の元祖鬼神が大変多いが、 クベーラももちろんその一つ。バラモン時代はたんなる悪魔だったが、仏教から三大神を中心としたヒンドゥー教へと推移する中で北方を守る守護神の地位におさまる。とはいえ、そのあやしげな出自は隠せるはずもなく、ご覧のような居様な姿でまつられることになったが、反対にいえば、あまりに恐ろしげな姿だったからこそ守護神の地位に抜擢されたともいえるだろう。
元祖鬼神に求められたものは力そのものだった。写真のクベーラ像が作られたのは仏教全盛からヒンドゥー教へと移りゆく紀元2世紀。力そのものを探求するタントラ思想黄金期の到来を予感させる非常に力強い彫像である。
クベーラは日本にも伝わった。毘沙門天でもあり、また金毘羅でもある。
毘沙門天は軍神としてまつられ、戦国時代には多くの侍から信仰された。一方、金毘羅は金刀比羅宮(ことひらぐう)の神、「こんぴらさん」として日本中にその名を知られるようになった。
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