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博物館で出会ったヒンドゥーの神々(2)

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5世紀、 ウッタルプラデシュ州のガンガー(ニューデリーの国立博物館)

ガンジス川そのものを女神ガンガーとしてまつったもの。川の神様としては、他にもヤムナーやサラスヴァティ、そしてナルマダなどがあるが、いずれも女神だ。ただし、前回、登場した大地母神であるチャムンダやドゥルガーとはかなり性質が違う。大地母神がときに醜悪で恐ろしいイメージがあったのにたいして、川の女神は人々を包み込むように優しく、健康的なイメージを持っている。大地母神をまつるとき、人々は闇にまぎれ、人目を避けるように祈りを捧げるのにたいして、川の女神に捧げる祈りは、大家族による巡礼、という、華やかな形をとる。

川の女神と大地母神は同じ女神でありながら、その素性はかなり違ったものだといえるだろう。たとえば、ガンガー女神はもともと地球に生を受けたものではない。ガンガーは天の川だったのだ。それを神々がお願いして、地球に下りてきてもらった。だからガンガーには大地母神にある泥臭さがほとんどない。

上の作品は5世紀とかなり古いものだが、印象は明るい。左手に持つのはクンブ、つまり壺である。ガンガー巡礼には欠かせない道具で、クンブにガンガーの水を入れてふるさとに持ち帰るのが習慣となっている。
8世紀、エローラ(マハーラシュトラ州)のガンガー(ニューデリーの国立博物館)

上と同じくガンガー女神。場所はデカン高原屈指の洞窟寺院エローラ。エローラには一度行ったことがあるが、力強く魅力的な彫像が非常に多く、ちょうどこの時期が、インドにおける彫像芸術の最盛期だったのではないか、という感想を持った。

ところで上の写真、同じガンガー女神でありながら、最初に紹介したガンガーに比べて、ほとんど魅力を感じない。造形的には力強いとは思うが、ガンガーらしい優美さや躍動感がない。ガンガーに限らないことだが、川の女神というのは、動物にたとえるとするなら、川を泳ぐ蛇である。つまり、それだけのしなやかさとか優美さが必要なわけだが、エローラ石窟から感じるのは圧倒的な迫力ばかり。エローラ彫刻の魅力は否定しないが、ガンガー女神とはどうも相性がよくないらしい。
11世紀、西ベンガルのガルーダ(コルカタのインド博物館)

鳥の神様ガルーダ。 インドでは少しマイナーな神様だが、インドネシアの代表的航空会社の名前にもなっているように、どちらかというとバリ・ヒンドゥーで大きな力を持っている。

ところで鳥の宿敵は蛇である。宿敵というより、鳥は蛇にたいして圧倒的な力を持っている。蛇、つまり蛇の神様ナーガがインドで虐げられていた時代には、おそらくガルーダが強大な力を誇示したと思われるが、その後、蛇を寵愛したシヴァの時代がやってくるにいたって、ガルーダの威信はじょじょに低下したのではないだろうか。

ガルーダはヒンドゥー三大神の一人ビシュヌの乗り物でもあるが、あろうことか、そのビシュヌもまた、アナンタ龍王(つまり蛇)に抱かれて寝るようになった。寝るのが大好きなビシュヌとしては、ガルーダにのって戦いに行くより、アナンタ龍王に抱かれ、気持ちよく寝るほうがずっと楽しい。ガルーダにとってはなにやら受難の時代であった。

ところで上のガルーダ、写真で見にくいが、頭の周囲に五匹のコブラを配している。さらに頭を守る冠状のものも、蛇の尻尾のようなもので構成されている。蛇の宿敵ガルーダがいったいどうしたことだろう。蛇を支配した、という権力の誇示なのか、あるいは、蛇とは仲良しになりました、という宣言なのか、残念ながら、よく分からない。
7世紀、マディヤプラデシュ州のハリハラ(ニューデリーの国立博物館)

ハリハラとは何か?ハリとはビシュヌ、ハラとはシヴァ、つまり、インド最強最大の二つの神様が合体して出来上がった無敵の神である。

写真を見てほしい。二つの神を明瞭に分けているのは帽子の部分だ。写真右手は烏帽子のような冠をかぶっている。これがビシュヌ。一方、写真左手はシヴァの特徴である蓬髪。つまりドレッドヘアーをしばりあげたものだ。

持ち物は非常にシンプルだ。写真右手のビシュヌは、その最大の武器である円盤、そして写真左手のシヴァもまた、その象徴である三叉槍(トゥルシー)が握られている。

さすが二大神が合体しただけあって、威風堂々とした雰囲気が、素朴ななかにもよく表現されている。

8〜9世紀、ジャワ島のガネーシャ(コルカタのインド博物館)

おなじみゾウ頭の神様ガネーシャ。太鼓っ腹が特徴のユニークな神様。シヴァファミリーの長子であり、商売繁盛の神様でもある。非常に嫉妬深いので、信者が寺に参拝するとき、たとえガネーシャ以外の神を第一に信じているとしても、まずはガネーシャの祠に行く必要があるとされる。反面で非常にパワーのある神として多くの信者を持っている。

さて、上の写真。ガネーシャらしい、あやしげなオーラは噴出しているものの、何か整然としすぎている彫像だな〜、と思っていたら、やはりインド以外の場所(ジャワ)で作られたものだった。8〜9世紀制作ということなので、職人自体は南インドからやってきた人だったかもしれないが、とはいえ、その土地で作られたものには土地の気が宿る。このガネーシャには、どこか南国の香りがあった。

12世紀、南インドのカーリー(ニューデリーの国立博物館)

ブロンズ像二点。描かれた神はどちらもカーリー女神。前回にも書いたが、やはり、この手のブロンズ像というのは表現に限界がある。殺戮の女神カーリーの描いたこの二点も、カーリーの特色である、逆立った髪の毛を強調したり、手にさまざまな武器を握らせてはいるものの、結局それだけで、カーリーが持つ土俗的な恐怖感などについてはあまり感じられない。

しかもブロンズ像が作られたのは南インド。北インドの大地母神を表現するには無理があるのかもしれない。
7〜8世紀、マディヤプラデシュ州のカーリー(ニューデリーの国立博物館)

上二点に続いてまた女神カーリー。しかし、今回はだいぶ趣が違う。殺戮の女神、というほどの狂気は感じないが、全体的に茫洋とした雰囲気で、ちょっと得体のしれない不気味さがただよっている。

さっそく写真の説明をする。まずは髑髏や生首について。顔の上に合計五個の髑髏が飾られている。さらに両手に各一個の生首、計七個。両手に持つのが生首であるのは、その形状からあきらかだが、さらにいえば、ちょっと見にくいが、それぞれの生首に噛み付こうとしている犬のような野獣、おそらくはジャッカルだが、それが二匹見えることから、これらの首が、まだ生き血を流している新鮮なものであるのが理解できる。

これらのジャッカルはおそらくダキーニという悪鬼であろう。日本にも輸入され、一部は狐と習合してお稲荷さんになったといわれている。

あやしげなモノはまだある。左右の首からだらりと腰にかけて下がっているひも状のモノだが、これはコブラである。おそらくカーリーのペットである。さらに両方の足元にもジャッカルか何かが狛犬のようにうずくまっている。そして左右の巨大な武器は棍棒と、例によってシヴァ派の象徴である三叉槍(トゥルシー)。

何から何まであやしく、顔もひどく原始的で、とても見ごたえがある。上に紹介したブロンズ像のカーリーに比べると、それが顕著である。

ちなみにこのカーリー像が出土したのはデカン高原北部のマディヤプラデシュ州。今も全人口の半分以上を先住民が占める、インドで一番土俗的な場所だ。殺戮の女神を信奉する暗殺者集団がつい数十年前まで暗躍していた地域でもある。そういうところで作られる女神像というのは、やはり味がある。

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「博物館で出会ったヒンドゥーの神々」は4回連載です。それぞれ(1)(3)(4)へもどうぞ。


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(当HP内、インド神様記事へのリンク集)

主要記事

殺戮の女神カーリー
ゾウの神様ガネーシャ伝説
シヴァという世界観
悪霊シヴァの起源
じつはインド最強ドゥルガー女神
水の女神サラスヴァティー
ダキニ(黒魔術の系譜)
猿の神様ハヌマーン
ナーガ(1)蛇神ナーガの系譜
ナーガ(2)蛇神ナーガと日本
宇宙の主ジャガンナート神
シヴァとビシュヌの子アイヤッパン
インドの神々(概要)

ページ内小さな記事
(これらの記事は「博物館で出会ったヒンドゥの神々」
各ページ内の特定の場所にリンクしています)


破壊神シヴァの化身バイラヴァ
没落したインド三大神の一つブラフマー
大地母神チャームンダー
殺戮の女神ドゥルガー
天の川の女神ガンガー
鳥の神様ガルーダ
最強の神ハリハラ
生首を手にしたカーリー女神
鬼族の守護神クベーラ
マヒシャを殺す女神ドゥルガー
シヴァの息子にして軍神カールッティケーヤ
半獣半人の神ナラシンハ
猪顔の神ヴァラーハ
シヴァと並ぶ最強最大の神ビシュヌ
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