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夜空を漂う小さな光が神だった

シヴァとビシュヌの子アイヤッパン

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る日、インドでテレビをスイッチをつけると、アナウンサーの絶叫とともに不思議な映像が目に飛び込んできた。夜の闇の中で、小さな光が山並みすれすれを行ったり来たりしながらうろうろしている。これを一体何だろう?僕は目を凝らし、耳を澄ました。

画面のシーンが一転し、今度は暗闇のなかにうごめく人々が映し出される。そこが聖地であり、何かの祭りであるのは分かった。相変わらずアナウンサーは何かを絶叫しているが、…耳が慣れてくるに従い、ようやく言っていることが分かった。

 「アイヤッパン!アイヤッパン!」

そう、アイヤッパンだ。インドでもっとも怪しく謎めいた神様。右半身がシヴァ、そして左半身がビシュヌというアイヤッパン誕生神話は奇想天外な魅力にあふれている。


山並みの向こうに見えるものは…

それはビシュヌが、霊薬アムリタをアスラたちから奪い返すためにモーヒニーという美女に化けたことから始まった。霊薬は無事に神々の手に戻ったのだが、ここで困った事態がおこった。美女モーヒニーの姿を見たシヴァが欲情してしまい、ついにビシュヌと交合してしまった。それで生まれたのがアイヤッパンというわけである。そのアイヤッパン、インドでもっとも強力な神様だと評判である。最強といわれるシヴァとビシュヌの組み合わせから生まれたわけだから、それも当然だろう(インドにはほかにも最強と言われる神様がとても多いから、本当は誰が最強なのかは不明である)。

アイヤッパンの一大聖地が南インド、ケーララ州にある。その名をサバリマライをいう。虎やゾウも出没するという原生林を潜り抜けた先の山の上にあり、一部の熱狂的な信者たちにとってはまさに天国のようなところだという。

僕も何年か前にその名前を知り、行きたいと思いながら今だそれは実現していない。話によると、ジャングルの中を裸足で十キロ近く歩かなくてはならないという。山の中の聖地にはおそらく宿泊施設もなさそうだから、相当きつい旅になりそうだ。今まで、(日本人が)サバリマライに行ったという話は、本などの類も含めて聞いたことがない。ま、その分、行く価値は十分にありそうだ。

サバリマライは基本的に女人禁制である。ただ、確か60歳を過ぎた女性は参拝を許される。寺には、十八段の黄金階段、というのがあって、信者は一段づつ十八回、この地を訪れることを祈願する。信者は全国にいるが、タミル地方に特に多いようだ。熱心な人はタミル中のアイヤッパン寺院を巡り歩いたのち、特別な日にあわせてサバリマライに赴くのだ。それらは、すべて徒歩裸足で行うのが好ましい。もちろんみんながそう出来るわけではないのだが、特に珍しい行為でもない。

ところで、冒頭の小さな光だが、あれは毎年1月14日にだけ現れる謎の物体で、信者たちにとってはもちろんアイヤッパンそのものであるらしい。僕はたまたま次の年にもまた同じ場面をテレビで見る機会があった。本当はラジコンかなんかで飛ばしているんじゃないか、とひねくれた人々は考えるかもしれない。僕は実際に見てもいないし、本当のことは分からない。ただ、昔、こんなことがあった。

それはヒマラヤ山中のある谷間のことであった。夜、やたら遅い夕食の時間を待ちながら、外で夜空を眺めていたときのことだった。ふと見ると、はるかな夜の闇に、小さな光がうろうろしている。最初は飛行機かなあ、と思っていたが、その光の点は行きつ戻りつうろうろしているので、これは普通ではないな、と少し驚いた。そのあと、何と、ほかにも二つほど小さな点が現れ、やはりうろうろしている。ちなみに、僕はこれを一人で見ていたわけではない。その後、宿に戻って、こんなことがあったけど、と地元民に話すと、彼らはこう言った。

「それが何かは分かりませんが、この地方では、神々が遊んでいるんだよ、と伝えています」

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(付記)
最初にこの場面をテレビで見た次の日、ホテルでもらった新聞に聖地サバリマライの祭りが一面で掲載されていた。祭りの様子かな、と思って読んでみると、何とこの祭りで何十人もの巡礼が将棋倒しで死んでしまった、というニュースだった。






サドゥ 小さなシヴァたち

インドの放浪修行者
サドゥの本へのリンクです。
ご覧ください。






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