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宇宙の主ジャガンナート神

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インドではじめて意識した神様がジャガンナートである。インド東海岸プリーという街でこのヘンテコな神様に出会って、一気にインド神様ワールドに引き込まれてしまった。以来、神様を見て楽しむのがひとつの趣味になった。

ジャガンナートは手も足もない神様であった、と神話は伝えている。上の写真を見ると、手があるように見えるが、そこはちょっと不明だ。物によっては、鼻毛が伸びているように見えるものもあり、見ているだけでおもしろい。

ジャガンナートは、普通、他の二つの神とともに、三体セットとして祭られている。上の写真(みやげ物だが…)、黒い顔がジャガンナートであり、ほか、白い顔が兄のバラバドラ、黄色い顔の小さな神様が妹のスバドラーで、兄弟そろってやっぱりヘンテコな神様たちである。

とはいえその変な格好とは裏腹に、ジャガンナートはじつは非常に偉大な神様でもあり、なんと「宇宙の主」と呼ばれているのである。




ジャガンナートの本拠地は東インド、オリッサ州の海辺の町プリーである。そこに巨大な寺院(下の写真)がありジャガンナートが祭られている。ここには連日、おびただしい数の巡礼たちがインド中から訪れる。これを迎える側の寺院で働く人も膨大で、街はまさにジャガンナートのために存在するといってもよいだろう。

この寺院では、古代から続く大麻を使った儀式がちゃんと合法的に認められているほか、夏、6月には、世界最大規模の山車祭りラタ・ヤットラが開催される。そこに詰め掛ける巡礼はじつに50万人ともされ、さらに少し前までは、山車に体を投げ出し、勝手に殉教してしまう人が続出したという。

熱狂的な信者は今もたくさん存在している。山奥の田舎から出てきたような巡礼たちのなかには、門前に立つだけで興奮し、ときにトランスに入ってしまう人もいる。

じつはそんな熱狂的な信者の一人から神様に間違えられたことがあった。

門前でうろうろしていたら、突然一人の熱狂的信者が目の前に飛び出し、そのまま這いつくばって、足を押さえられてしまった。この場合、相手の足に触れるというのは、最大の信仰心を意味しているから、邪険にするわけにもいかない。しばらくじっとしていたら、うやうやしくリンゴと賽銭を差し出してくる。お供え物である。仕方がないから、受け取ってそのまま立ち去ったが、彼の中で、僕の姿はいったいどんな風に映っていたのだろう。

熱狂的信者というのは一種の狂人であるが、彼らには「神」という方向性があるから、インドの聖地ではほとんど問題にならない。トランスは聖地のありふれた光景の一つである。




ジャガンナートはインドでもっとも人気のある神様であるクリシュナと同一視されている。クリシュナもまた、ときに真っ黒なただの石で表現されるから、同一視されているというより、もともと一緒だったのか、その辺りは謎である。

いずれにしても、クリシュナ神(あるいはビシュヌ神)と同一視されることによって、ジャガンナートはさらに勢力を拡大し、多くの信者を得た。下の写真は、そんなクリシュナ信者、新興宗教の一派ハレークリシュナの一団。弁髪姿の西洋人たちが、乞食の子供に追われながら街を歩いている。

(ちなみにジャガンナート寺院は異教徒の入場は認めていない。ハレークリシュナは一応はヒンドゥーなのかもしれないが、たぶん、入場は無理だろう)




「宇宙の主」でありながら、ヘンテコな格好をしたジャガンナートはどこから生まれたのだろう?

ジャガンナートが信仰されるオリッサ州一帯は、先住民の勢力が非常に強い場所である。おそらく40パーセント以上が先住民であるが、一般人もまた、その血と伝統を充分に受け継いでいる。

オリッサのバラモンは、すぐ北となりのベンガル地方と並んで、魚を食べるバラモンとして、他の地域から軽蔑されるが、この地にベジタリアンの思想はもともとなかったのである。「生きとし生けるもの」と共存し、依存しあって自然な暮らしを行うのが先住民の道であり、ジャガンナートもまた、そうした伝統から直に生み出された。

一説によると、ジャガンナートは樹木の神であったらしいが、いずれにしても、太古の自然から生まれた非常に原始的な神様であることは確かである。下の写真のような、聖樹の下に安置された石の神様がジャガンナートへと発展していったのかも知れない。

(ジャガンナート信仰の中心地プリーは日本人を中心とした外国人にも人気の街である。観光地の割には人も素朴で、ビーチ沿いを走る一本道を中心に多くの安宿が並んでいる。砂漠のように広い砂浜があり、冬には、太陽が海から昇り、海に沈む。カルカッタから夜行列車、約7時間)







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