アラハバードサンガム
インドでもっとも聖なる荒地

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アラハバード (サンガム) ALLAHABAD
朝のサンガム
ボートにのって早朝のサンガムに向かう
サンガムの朝
巡礼と乞食

ガンガー(ガンジス)とヤムナー、この二つの聖なる川が交わる場所がサンガムである。伝説では、さらに地中からサラスヴァティーという地下水流が同時に合流しているとされていたが、最近になってその存在が明らかになったと聞いた。これら三つの川が交わる場所に土砂が堆積して、浅瀬、あるいは季節によっては小さな中州を作っている。 その中州を中心に、広大な河原が巨大な宗教空間を形成しているのがこの聖地の特徴である。

ちなみにサンガムとは合流を意味していて、古代においては仏教者の集まりをサンガと呼ぶこともあった。本ページでは、三つの川が交わる地点を中心としたこの河原全体をサンガムと呼ぶことにする。

サンガムがあるのはヴァラナシから西へ約100キロの大都市アラハバード郊外である。アラハバードの中心部からサンガムへは約6キロ、サイクルリクシャーで20分ぐらいの距離なので、通常はアラハバードに宿泊しながらサンガムへ通うことになる。

(アラハバードはイスラム名であり、古くからのヒンドゥー名をプラヤーグという。プラヤーグは合流点を意味する言葉であり、サンガムと同義である。が、プラヤーグと言った場合は、現在のアラハバード全体を含む意もあり、このページでは聖なる河原に限定することで、サンガムと呼んでいる。なお「サドゥ 小さなシヴァたち」ではプラヤーグを用いた)

古代インドの叙事詩マハーバーラタでは、サンガムはほかに並ぶもののない聖地とされている。つまりヴァラナシよりもハリドワールよりも格が上で、少なくともインド国内では第一の聖地と考えられていた。細かな順位にこだわる必要はないが、一番か二番では大きな違いがある。サンガムとライバルを争うのはやはりヴァラナシかハリドワールということになるだろう。南インドではマドゥライティルマラが巨大だが、北と南では文化自体が違い、比較にならない。

個人的な考えだが、僕もまたサンガムがインド第一の聖地ではないかと考える。理由は二つある。

一つは単純に巡礼者の数である。サンガムでは毎年1月から2月にマグメーラと呼ばれる祭りが開催され、一ヶ月近くにわたって非常に多くの巡礼者がこの地を訪れる。日によっては数十万人、のべにして300万とも500万ともいわれる人々がやってくる。

さらに六年に一回、クンブメーラと呼ばれる世界一の祭りがマグメーラと同時期に開催される。これはあまりに巨大すぎて、当局の発表する巡礼者数もひどくアバウトなものとなる。どの程度、正確なのかはまったく不明だが、その数はなんと5000万人から6000万人と報道される。仮に5000万人だとしても、じつにインドの全人口の20人に1人がこの祭りを訪れることになる。

サンガムを第一の聖地と考えるもう一つの理由は非常に簡単だ。つまり、祭りの期間をのぞけばサンガムはただの広大な河原であり、恒久的な人工物がきわめて少ない、という点にある。「それって反対じゃないの」と思う人がいるかもしれない。つまり、重要な聖地だからこそ整備して巡礼者の便宜を図るべき、という考え方だが、それは真実ではない。聖地はあくまでも神々のものであり、巡礼の都合で自然景観を変更してはならない、というのが本来のあり方であろう。自然景観を変更しないという態度は、結局、その地に対する恐れの感情が強く働いているからだ。

そういう観点から見れば、人工的に整備されたハリドワールや三十を超えるガートが並ぶヴァラナシよりサンガムはより自然であり、放置されている分だけ格式が高いのかと思えてくる。少なくとも古い時代にはそういった考えが普通にまかり通っていたと思われるが、インドも少しずつ変わり始めた。

じつは、サンガムに恒久的な宗教施設を作る計画もあるらしい。しかし聖者の側から反対の声が起こっている。 聖者というのは、おそらくサドゥのお偉いさんなのだろう。きわめて常識的な考え方だが、商業至上主義の前でどこまで抵抗できるのかは不明だ。サンガムに色とりどりの寺が建ち始めれば、そこでインドの純粋な宗教文化もついに終わりを迎えることになるのかもしれない。

それはともかく、上記の二つの祭りがサンガム巡礼の中心である。六年に一度やってくるクンブメーラはその年のマグメーラにとって変わる。いずれにしろ、1月から2月にかけてが巡礼シーズンであり、その他の季節はおそらく、ただただ、なにもない河原でしかなく、訪れたとしても途方にくれてしまうかもしれない。しかしまた、それも聖地本来の姿なので、興味がある人は是非訪れてほしい。

僕はかつて三度サンガムを訪れ延べ一ヶ月程度を過ごしたが、いずれも祭りの季節である。機会があれば何もない河原を訪れてみたいが、本ページでは祭りの中心に書いていく。

 
 
橋から見た午後のサンガム
テントで出来上がった都市
 

六年に一度のクンブメーラは終わったばかりであり、次回は2013年にやってくる。クンブメーラのクンブとは水がめの意味であり、メーラは祭りである。聖なる川の水を汲むことに由来している。クンブメーラのメインイベントはハリドワールの項でも書いたとおり、裸のサドゥたちによる大行進である。それについては「サドゥ 小さなシヴァたち」に書いた。

今後4年間(2008年時点)は通常の祭りであるマグメーラの開催のみとなるが、それだけでも、十分過ぎるぐらいにおもしろい。期間は年によって違うが、1月半ばから2月半ばの約一ヶ月間である。この期間、サンガムの河原には無数のテントからなる巨大都市が現れる。テントに泊まることもできると思うが、よく分からない。

外国人が訪れる場合はアラハバード市内に部屋をとるのが一般的だ。一番よい場所はバススタンドや鉄道駅の近くである。先にクンブメーラの時に泊まっていたのはバススタンド横のツーリストバンガローだった。部屋によっては夜中うるさいが、僕には最高の場所であった。というのは、そこなら24時間いつでもサイクルリクシャーが捕まえられるのである。まだ真っ暗な時間に宿を出て、サンガムで朝日を眺めるには、とても便利な場所である。

サンガムに限らないが、巡礼の中心は早朝である。朝霧のうっすらとかかる川の対岸から真っ赤な太陽がのぼってくる。その様子は何度見ても飽きることがない。それに朝の冷気が本当にすがすがしく、言い知れぬ幸せを感じる。またあるときは数メートル先も見えないほどの霧に立ち込められ、手探りで川を目指し、ときにはボートに乗る。霧の向こうから帰ってくるボートが静かに現れ、音もなくまた霧の中に消えていく様子はまるで三途の川である。

早起きしなければ三文どころの損失ではすまないだろう(昔の三文は大金…)。昼間の間の抜けたサンガムとは比べようがない。

朝に次いで美しいのが夕方。塵がまじった空気感に哀愁がただよう。川岸ならどこで夕暮れを過ごしてもいいが、もし時間があるなら、ガンジス川にかかる自動車用の橋の上(ヴァラナシにいたる国道上の橋)から川に沈む夕日を眺めてみよう(一番下に写真あり)。切なく美しい光景に胸を打たれる。

橋の両側に歩道があるから歩くのは問題がない。ただし撮影は原則禁止であるから目立つことはしないほうがよい。橋の上に行くのは少々やっかいだが、街から見て、ガンジス川の対岸側から歩いていくと分かりやすい。ただし、サンガム中心部から三十分近く歩く必要がある。面倒なら街からオートリクシャーで直接行くことも出来る。

また、ヴァラナシからバスで来る場合はこの橋を渡るので、左側、窓側の座席を確保しよう。約三時間の道のりだが、ちょうど夕暮れにあわせてバスを選んでもよい。橋から見下ろすサンガムの光景が忘れられないものになるだろう。

 
 

マグメーラの期間は約一ヶ月だが、2月に入ると日々巡礼が少なくなり、寂れていく。1月後半から二月はじめあたりに、アマオシアと呼ばれるもっとも重要な一日があり(おそらく月のない夜)、この日を最終日にした二日間が特に盛り上がる。訪れるのは大変だがそれだけの価値がある。アマオシアの日付は毎年変わるが、たとえばヴァラナシのガートに並んでいるバラモンたちは誰でも知っている。

アマオシアにあわせてサンガムを訪れるなら、アマオシアの最低二日前にアラハバード入りしたほうがよいだろう。前日はほとんどのホテルが満室になる可能性もある。またアマオシア当日(ときには前日も)はリクシャーの走行が一部制限され、サンガムまで三十分以上歩くことになるだろう。朝日が見たいなら、真夜中4時ぐらいに出発しても早すぎることはない。ただし相当寒いので、必ず十分な防寒着を用意したい。チャイや軽食は、サンガムのあらゆる場所で手に入る。

あまり混雑するのが嫌なら、逆にアマオシアの時期を外せばよいだろう。

(アラハバードへのアクセスと市内およびサンガム情報)

アラハバードへはデリーから直接列車が乗り入れている。たしかプラヤーグエキスプレスという名前だったが、夜遅くニューデリー駅を出発して朝一番に終点アラハバードに到着する。ヴァラナシからはすでに書いたようにバスで約3時間。列車もある。

バススタンドは二ヶ所あるが、ヴァラナシからのバスが到着するのはメインバススタンド。近くに屋台が多く、夜はかなり賑わう。一番人気はスピシーバイツという屋台だ。タンドーリーチキンとビリヤーニがとくにおいしい。さらに、そのすぐ近くにマクドナルドやショッピングセンターもあり便利。ただしホテルは周辺に散らばっているから、探すのは結構大変だ。

ツーリストバンガローは600ルピー(約1800円)と少し高いが泊まる価値がある。アマオシアの数日前だとすでに満室だと思われるが、デリーなどのUP(ウッタルプラデシュ州)ツーリズムで予約できる。

一方、駅の近くは旧市街。ホテルが比較的固まっているので探しやすい。駅構内から駐車場を抜けると賑やかな通りがあり、それを渡って、ちょうど目の前の通り(たぶんDr Katiu Rd)を入っていくと、中級ホテルがたくさんある。食堂は駅前にたくさんあるので不便はない。

サンガムへはサイクルリクシャーで。現地料金は20ルピー(約60円)程度。サイクルリクシャーは、サンガムに入る土手の手前まで行く。土手の上から広大な風景が眺められる。目の前に見える川がガンジス川。その両側の河原にテントが建ち並ぶ。少し左手に見える巨大な橋がすでに書いた自動車用の橋である。

サンガムの中心、つまり二つの川が交わるのは、土手から見てやや右手前方。多くの巡礼が歩いていくので、彼らについて歩けば迷うこともない。川岸に到着すると(する前から) 、ボートマンにうるさく付きまとわれることだろう。

サンガムでのボートはヴァラナシほどの価値はないかもしれない。十分に観察してから乗るかどうかを決めればよい。料金は一時間50ルピー程度からと思われるが、がめついボートマンが多く、値段交渉は結構大変だ。

以前は非常に怪しげな祭りだったが、近年、インドの社会変化にともない多少は明るい雰囲気になりつつある。とはいえ、混雑した日にはスリが横行するなどさまざまな危険もひそんでいるので、訪れるなら十分な注意が必要。

(サンガムについてはフォトエッセイのほうでも「聖地サンガムに集う」というエッセイを04年に書きました。どうぞご覧ください)

 
 
夕暮れのガンジス
巨大な夕日が川の向こうへと沈んでいく
 



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