ケダルナート
ヒマラヤ高峰に囲まれたシヴァ神の聖地

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ケダルナート KEDARNATH(標高3584メートル)
登山口ゴーリクンド周辺に集まる馬と馬使い
登山道途中の村ランバラ
ケダルナートまであとわずか

ガンジス川の支流アラクナンダー川からさらにヒマラヤ奥深くに分け入る小さな流れがある。マンダキニという一風変わった名前の川である。マンダキニの「マン」は不明だが、「ダキニ」は仏教に取り入れられたのち、日本にもやってきたインド土着の鬼女神に由来している。

マンダキニ川をさかのぼるとシヴァをまつる聖地ケダルナートである。 シヴァも元来は悪鬼の親玉のような存在であり、ダキニとの関連も浅からぬものがあるだろう。ということは、やはりここは、シヴァと悪鬼たちが住み着く魔性の谷間であろうか。

ケダルナートは ヒマラヤを巡るチャールダーム(四ヶ所巡礼)の一つである。他の三ヶ所に比べれば500メートルくらい標高が高く、少し不便な場所にある。シヴァの聖地だけあって本格的なシヴァ派サドゥが数多く訪れ、夏を過ごす場所でもあり、周囲をぐるりと囲んだヒマラヤの景観も含めて、僕がもっとも好きな聖地の一つである。

まずはケダルナートへの道を簡単に紹介する。

旅の基点は他のヒマラヤ聖地と同じくリシケシハリドワールである。 まず目指すはゴーリクンドという小さな宿場町だ。リシケシからはバスで約10時間。アラクナンダー川沿いの比較的整備された道をしばらく走り、ルドラプラヤーグで左折する。そこからはマンダキニ川に沿うせまい谷間をひたすら登っていく。ガンゴートリーやバドリナートに比べると、道中の村々もどこかしらローカルな雰囲気がある。

夕方、ますますせまくなる谷間を上り詰め、ゴーリクンドに到着する。ゴーリクンドは温泉のある小さな町、数本しかない通りに巡礼があふれかえっている。そのわりに宿もそれほど多くなく、また設備のわりには高い。

ゴーリクンドのボロ宿を早朝チェックアウトしてさっそく山道を歩いて登る。ケダルナートまでは6時間から7時間の行程である。荷物が重ければその辺にいるポーターを雇うことが出来る。ポーターはケダルナートに到着後、すぐにゴーリクンドに駆け下りていくから、仕事は半日でも結局は一日分を請求されることになるかもしれない。ガンゴートリーより相場は高く、一日約500ルピー(1500円程度)であったと記憶している。

楽をしたい人にはポニーや籠(パーランギー)がある。好奇心で値段を聞いたがこれまた記憶が曖昧である。間違っているかもしれないが、たしかポニーは約1000ルピー(3000円程度)、籠だと2000ルピー(6000円程度)を超えたような気がする。現地では高額だが、結構多くの人が利用している。

ちなみに大金持ちはヘリコプターでやってくる。リシケシあたりから飛ぶので、当然だが、めちゃくちゃ高い。マハラジャや映画俳優などがお忍びでお参りするようだが、かたや原始的なサドゥが杖とズタ袋一つでふらりと山道を歩いていく。インドならではの不思議な光景である。

ケダルナートまでの山道では数多くの茶店が点在しているので、食事などの心配はまったくいらない。道中は歩く者とポニーと籠で渋滞ができるほど賑わっている。おまけに道はポニーの糞だらけだ。

登山口であるゴーリクンドからケダルナートまでの標高差は約1500メートル。いいかげん歩くのが嫌になった頃、目の前にヒマラヤの白い峰々が現れる。ケダルナートまでもうすぐだ。

(注) ヒマラヤ巡礼についておよびチャールダーム近郊の簡単地図もあわせてご覧ください。

 
 
遠くにケダルナートの村が見える
ケダルナート寺院
ケダルナートから見たヒマラヤ
 

ケダルナートは戸数、百軒ほどの小さな村である。寺は村の一番奥にある。ケダルナートについたら早めに宿の確保をしておきたい。最盛期には宿が不足しがちになる。宿を確保したらシヴァをまつるケダルナート寺院に向かおう。

石造りの古めかしい本堂は1200年の歴史を持つ。ケダルナート寺院はインドに12あるジョティリンガム(光り輝くリンガ)の一つである。寺はヒマラヤから流れ出る五つの川がまじわる地点の少し奥の盛り上がった丘陵に建てられている。

境内に入るとたくさんのサドゥが座り込んでいるのが見える。その一部は夜も境内で寝る。チャールダーム(ヒマラヤ四ヶ所巡礼)のほかの聖地では、そのような光景は見られない。一般的に、サドゥは中心寺院から少し離れた場所にいるものなのだ。さすがはシヴァの聖地である。

とはいえ、僕はここでも寺院内には入らなかった。寺院内はいつでも入れるわけではない。決まった時間に大勢の巡礼にまじってお参りするほかなく、有名寺院ではいつも二の足をふんでしまう。それに寺院は神の住処ではなく、あくまでも依り代にすぎない。通常、神は寺院ではなく、その背後の自然のなかに存在している。

という訳で、参拝を終えたら(参拝しなくても)その裏手の自然をめぐるのがおすすめだ。ヒマラヤを見上げる草原に、いくつも気持ちの良い散策路が続いている。時間があれば、村の右手にある丘に登ってみよう。吹きさらしの丘の上にベル神がまつられている小さな寺がある。ベル神はこのあたりの悪霊である。黒く塗られた神々の相貌がヒマラヤの威容とあいまって、さらに神秘的な雰囲気を作り上げている。丘の上まで歩いて30分はかからない。

二泊以上するなら少し遠出して、ヒマラヤを散策したい。いつくかのコースがあるが、もっとも訪れやすいのが、村から2キロのチョラバル・タール(湖)である。村に入る直前から西の斜面に道がある。草原の中をゆっくり登って約2時間。登りきって少し降りると小さな湖が見えてくる。夏の初めはまだ雪に覆われている。雨季、雪が溶けはじめると、その下の土の部分から一斉に高山植物が咲き始めるという。ただし、雨季は道路もたびたび遮断され、旅行は大変になる。

夕暮れは寺の周辺で過ごすのがおすすめだ。夕方からまた参拝が出来る。黄昏ていく山々とバザールのきらめきがたいへん美しい。

 
 
ベル・マンディール(寺院)からケダルナートの村を見下ろす
ベル・マンディール(寺院)への坂道
夕暮れのケダルナート寺院
 



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