ケダルナートは戸数、百軒ほどの小さな村である。寺は村の一番奥にある。ケダルナートについたら早めに宿の確保をしておきたい。最盛期には宿が不足しがちになる。宿を確保したらシヴァをまつるケダルナート寺院に向かおう。
石造りの古めかしい本堂は1200年の歴史を持つ。ケダルナート寺院はインドに12あるジョティリンガム(光り輝くリンガ)の一つである。寺はヒマラヤから流れ出る五つの川がまじわる地点の少し奥の盛り上がった丘陵に建てられている。
境内に入るとたくさんのサドゥが座り込んでいるのが見える。その一部は夜も境内で寝る。チャールダーム(ヒマラヤ四ヶ所巡礼)のほかの聖地では、そのような光景は見られない。一般的に、サドゥは中心寺院から少し離れた場所にいるものなのだ。さすがはシヴァの聖地である。
とはいえ、僕はここでも寺院内には入らなかった。寺院内はいつでも入れるわけではない。決まった時間に大勢の巡礼にまじってお参りするほかなく、有名寺院ではいつも二の足をふんでしまう。それに寺院は神の住処ではなく、あくまでも依り代にすぎない。通常、神は寺院ではなく、その背後の自然のなかに存在している。
という訳で、参拝を終えたら(参拝しなくても)その裏手の自然をめぐるのがおすすめだ。ヒマラヤを見上げる草原に、いくつも気持ちの良い散策路が続いている。時間があれば、村の右手にある丘に登ってみよう。吹きさらしの丘の上にベル神がまつられている小さな寺がある。ベル神はこのあたりの悪霊である。黒く塗られた神々の相貌がヒマラヤの威容とあいまって、さらに神秘的な雰囲気を作り上げている。丘の上まで歩いて30分はかからない。
二泊以上するなら少し遠出して、ヒマラヤを散策したい。いつくかのコースがあるが、もっとも訪れやすいのが、村から2キロのチョラバル・タール(湖)である。村に入る直前から西の斜面に道がある。草原の中をゆっくり登って約2時間。登りきって少し降りると小さな湖が見えてくる。夏の初めはまだ雪に覆われている。雨季、雪が溶けはじめると、その下の土の部分から一斉に高山植物が咲き始めるという。ただし、雨季は道路もたびたび遮断され、旅行は大変になる。
夕暮れは寺の周辺で過ごすのがおすすめだ。夕方からまた参拝が出来る。黄昏ていく山々とバザールのきらめきがたいへん美しい。
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