ゴームク
ガンジス川源流の風景

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ゴームク GAUMUKH (標高3892メートル)
チルバーサーからガンジス川を眺める
荷役用のロバ

ガンジス川が氷河から流れ出る場所、ゴームク。ただの源流というだけでなく、風景自体も非常にドラマチックだ。ますはゴームクへの道を順にたどっていきたい。

出発点はガンガー女神をまつる寺がある聖地ガンゴートリー。 その裏手からゴームクへの山道が続いていく。しばらくは松林の中のゆるい坂道を登っていく。晴れていれば、ときおり前方にヒマラヤ山脈が顔を見せる。

4時間ほど歩くとチルバーサーと呼ばれる場所に着く。チルバーサーの「チル」は松を意味する。その名のとおり、松林に囲まれたゆるい斜面に茶店がいくつも並ぶ。茶店ではチャイはもちろん、簡単な食事も取れるし、宿泊も出来る。たとえばゴームクからの帰り道、ガンゴートリーまで行くのが億劫になったら、ここに泊まってもよい。ただし個室はなく雑魚寝となる。もちろんトイレもないから周囲の松林で用を足すことになる。

チルバーサーの松林を抜けると風景は一変する。山肌から木々が消え、潅木が点在する荒涼とした風景が広がる。このあたりまで来るとヒマラヤ山中に入ってきたという実感が湧くだろう。道はガンジス川左岸の斜面に続いていくが、注意したいのは落石である。つねに頭上の状態を観察する必要がある。雨の日はとくに危険だ。普段は難しくないルートだが、雨季にトレッキングするならガイドを雇ったほうがいいだろう。

しばらく歩くと道はしだいに傾斜を強めていく。急斜面を登りきると谷が開け、遠くにゴームクの折り重なりあう氷河が眺められる。その背後に圧倒的な姿を見せるのがバギラティーの山々だ。さらに少し歩くと茶店が5.6軒並んでいる。これらの茶店でも泊まれるが、一般的には、すぐ下に見えるアシュラム(僧院)に宿泊する。このあたりをボジバーサーと呼ぶ。

アシュラムの正式名称はラル・ババ・アシュラム。一泊二食チャイ付きでたしか150ルピーであったと思うが、違うかもしれない。ちなみにサドゥーは無料である。

アシュラム内はタバコ禁止だが、持ち込むことは問題ないから吸いたければ門前で。門前ではおそらく何人かのサドゥが座り込んで大麻を吸っていることだろう。夕暮れの山々を眺めながら彼らとゆっくり過ごすのが楽しい。

アシュラムは一応個室があるが、最盛期には相部屋となり、小さな部屋に4人ほど詰め込まれる。状況次第では上の茶店のほうが快適かもしれない。夕食は決まった時間に皆で一緒に食べる。最初にバジャン(聖歌)を歌い、それから一斉に食事をとる。ここに限らないことだが、こうした宗教施設で食べる食事はだいたいおいしい。また、どうでもいいことかもしれないが、このアシュラムにはトイレがある。茶店にはトイレがないから、どうしてもトイレが必要な人にはアシュラムがいいだろう。

(注) ヒマラヤ巡礼についておよびチャールダーム近郊の簡単地図もあわせてご覧ください。

 
 
シヴァリンガム峰
サドゥーをまじえた巡礼たち
 

アシュラムのあるボジバーサから源流ゴームクまでは約4キロ、歩いて一時間少しである。ガンゴートリーから直接やってくることも可能だが、ゴームクでの宿泊は禁止されているので、何があってもボジバーサまで戻らなければならない。

ボジバーサからゴームクへは荒涼とした殺風景な河原の道をひたすら歩く。途中、右手に尖った山頂を見せるのがシバリンガと呼ばれる山である。そのお膝元にあるのがさらに登った仙境タポヴァンである。

一時間ほど歩くと茶店に出る。軽食やチャイがあるが、営業許可がないので泊まれない。茶店からいくつかの祠を見ながらさらに歩くと、目の前にゴームクの氷河が圧倒的な姿を現す。折り重なりあう氷河が高い壁となって目の前に迫ってくる。かつては氷河からガンジスの水が飛び出してくるのがよく見えたそうだが、現在、源流が左手奥に少し後退して、穴自体は見えない。足場の悪い河原をさらに進むことも出来そうだが、無理は禁物である。事故も多い。

ところで、ゴームクとは「牛の口」を意味している。 背後にそびえるヴァギラティーの山肌に口以外の牛の顔を想定し、水を吐き出す氷河を牛の口にたとえて、そのように呼んでいる。少し遠くから眺めたほうが牛の顔をより実感できるかもしれない。

ガンジス誕生神話を簡単に記しておきたい。

聖人アガスティアが海底に暮らす悪魔を退治するため地球のあらゆる水を飲み込んでしまったのが物語りの始まりだった。悪魔はいなくなったが、同時にすべての水が大地から消えてしまった。当然、地球上の生き物が生死の境をさまようこととなった。

そこで立ち上がったのが苦行者バギラティー。彼は神に祈り、水を地球に与えてくれるようにと苦行に励んだ。それを見た神々は、当時、天の川だったガンガー(ガンジス川)を地球に下ろすことを計画する。しかし問題があった。ガンガーの豊富な水量が一気に地球に衝突することになったら、おそらく地球はその衝撃に耐え切れない。その衝撃に対抗できる存在はシヴァしかいないだろう。とはいえ肝心のシヴァは神妃パールヴァティーに夢中で、地球のことなどにはまるで興味がない。

バギラティーはさらにヒマラヤにおもむき長年にわたって厳しい苦行を重ねた。やがてその苦行はシヴァ神の知るところとなる。シヴァは、自分のために苦行をする者を、ことのほか可愛がる。シヴァはバギラティーからの願いを聞いてやることにした。

そしてガンガー降下の日、圧倒的な水量で地球に落ちてきた天の川ガンガーを、シヴァは自分の長い髪の毛でいったん受け止め、それからゆっくりと地球に下ろすことに成功する。

以上が「ガンガー降下」に関する神話のあらすじである。その様子は南インドのタミル地方にあるマハーバリプラムで再現されている。日本では「アルジュナの苦行」の名で知られるが、神話に基づくなら「バギラティーの苦行」と表現したほうがよいのかもしれない。

ところで、この神話が意味するものはなんだろうか?それはおそらく、ヨーガの真髄についてではないかと僕は勝手に解釈している。この世のエネルギーであるガンガーの流れとそれを制御するシヴァ。シヴァはもちろんヨーガの祖であるが、シヴァを動かしたものはバギラティーの苦行であり、情熱だった。

ゴームクにはヨギ(ヨーガ行者)であるサドゥが数多く訪れる。彼らにとって、ここは特別な場所である。たとえば、リシケシあたりのちまちました道場でヨーガをやるくらいなら、しばらくゴームクを歩き回ったほうがよいのでは、と僕などは思ってしまうが、いかがだろうか。

(注) ヒマラヤ巡礼についておよびチャールダーム近郊の簡単地図もあわせてご覧ください。

 
 
ゴームク近くに祭られたトゥルシー(シヴァの槍)
ガンジス川はここから流れていく
満月まであとわずか
 



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