ガンジス川の支流、アラクナンダー川上流にある聖地バドリナート(標高3096メートル)。ウッタルカンド地方(ガンジス川源流付近の山岳地帯)におけるチャールダーム(四ヶ所巡礼)の一つであり、ガンジス川本流の聖地であるガンゴートリーをも凌ぐ人気を誇る。また、インド全土を守護する四大神領の一つでもある。
バドリナートでまつられているのは太陽神である「ナラヤン」 、これはビシュヌ神とされている。ナラヤンをまつる巨大な寺院が街の高台にある。その背後にある谷間の奥には、ヒマラヤの名峰ニルカンタ(標高6600メートル)が静かに鎮座している。
バドリナートは深く険しい谷間をさかのぼった場所に突如明るく開けた比較的平坦な土地である。現在は多くの建物が立ち並んでいるが、古くは天国を思わせるような美しい場所だったに違いない。また、寺院のすぐ下には温泉が湧いており、巡礼たちに大人気だ。おそらく、大昔に仙人の類(サドゥ)が避暑を兼ねてこの地を訪れたのが、聖地バドリナートの起源だったのだろう。
バドリナートからアラクナンダー川を一時間ほどさかのぼるとマナ村に到着する。マナ村の住人はチベット系だ。マナ村の住人かあるいは大昔の仙人か、どちらがさきにバドリナートにやってきたのだろう?サドゥ派の僕としては、むろん仙人が先だと信じているが、真相は分からない。ちなみに、バドリナートの寺院が建てられたのは二世紀とされている(現在の建築は新しい)。
アラクナンダー川は名前を変えて、さらに奥へと続いている。そこをずっとたどって、峠を越えると、なんとガンジス川本流であるヴァギラティー川へ続く谷に出る(歩くといっても10日間以上かかる危険な道だが…)。つまり、ほとんど同じ場所から、東西に流れ出る二つの川(アラクナンダー川とガンジス本流であるヴァギラティー川)が山々のあいだを走りぬけ、その後、下界近くの谷間で合流してガンガー(ガンジス川)を名のることになる。
この二つの川にはさまれた巨大な山岳地帯がヒマラヤ伝説の中心であり、まさに神々の山といってよい。そこに今も多くの仙境があるが、僕自身もまだほとんど訪れることが出来ないでいる。
バドリナートを出発点とする有名な仙境があるそうだ。名はサトパン。バドリナートから眺められるニルカンタ峰の裏側にあるが、道はマナ村から支流をさかのぼる。人里のない山岳地帯を何日も歩かなくてはならないから、もちろんガイドやテントが必要となる。
(注) ヒマラヤ巡礼についておよびチャールダーム近郊の簡単地図もあわせてご覧ください。
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