スミルナートババのクティアに座っていた数時間のあいだに何組かの客が来た。そのほとんどはいわゆるイチゲンさんである。普通の巡礼だけではなく警官や軍人も顔を見せた。ある軍人たちに話を聞いてみると、彼らは数日間の配置命令を受けてケダルナートに登ってきたという。ケダルナートは初めてだったが、噂を聞いてさっそくこのクティアにやってきたのだ。
サドゥと軍人、あるいはサドゥと警官の組み合わせというのは少し意外な気がするかもしれない。とくに警官はサドゥの好物である大麻を取り締まる側にある。サドゥの大麻吸引自体は問題ないとしても、そのような場所に警官が気軽に出入りするのは何となく不思議な気がする。でも現実には、サドゥのクティアを訪れる軍人や警官というのは意外に多い。そして彼らはクティアの主に敬意のこもった挨拶を行い、時間が許せばサドゥとともに大麻を吸うのである。
警官や軍人の一部がサドゥに畏敬の念を抱いているのは間違いない。それはどうしてなのか?考えられる一つの要因は、やはりサドゥが持つと信じられている不思議な力にあると思う。
サドゥは平和的思想のみを信条とする人々ではない。彼らが信仰するシヴァ神が戦争と破壊の神であることを考えればそれも不思議なことではない。物静かに端座するサドゥもじつは噴火直前の火山のようにその力を内に蓄え、隠し持っている。サドゥと共に座るときに感じる深い静寂も決して空虚なものではなく、自然界に存在する微細な力のせめぎあう緊張をはらんでいる。クティアはさまざまな力に満ち溢れた場所であり、その力にあやかろうとして軍人や警官がクティアに訪れるのは当然のことかもしれない。