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同行二人

旅行記「サドゥを探しに」
第二章 ガンガー源流編の第五話




次の日はゴームクからさらに天上の楽園と呼ばれるタパヴァンを目指すはずだったが、Iさんの体調が非常に悪い。本人はガンゴートリーで最後に食べたオクラカレーにあたったと考えているようだが、たぶん高山病の影響だろう。昨日は一気に千メートルも登った。現在の標高は約四千メートル、高山病の影響がもっとも出やすい標高でもある。いずれにしてもIさんは寝込んでいるから今日は動けない。とりあえず休養日ということになった。

その日の午後から残り四人でゴームクまで散歩に出る。ゴームクまでは約一時間だったがサントスナートババも少し元気がない。ほとんど腕力だけで歩くのだから疲れるのも無理はない。明日が少し心配である。アマルナートババもそのことを気にかけていた。

「ワシは思うんだが…、サントスナートババはタパヴァンまでは無理だろう。彼はワシの大切な友達じゃ。危険な道は行かせたくない。それでいいかな?サントスナートババにはワシから言っておくよ」

サントスナートババが斜面と格闘する姿を見たかったのだが目の前で死なれても困る。かわいそうだが彼には留守番ということにしてもらおう。Iさんも難しければ、三人で行くことになるだろう。


ところでアマルナートババとの関係だが、この二日間ですっかり打ち解けるようになった。最初の出会いでは五百ルピーをいきなり請求してきて、なんか横暴なサドゥだな〜、という印象が強かったが、実際に付き合うと全然そんなことはない。おだやかで心優しいサドゥである。それに日傘をさしてのんびり歩くさまはなんともいえずかわいい。サドゥにたいして「かわいい」というのも変だが、実際、彼には小さな女の子のようなかわいい趣味もあった。

あるとき、ずっと下を向いて歩いているから不思議に思って声をかけてみた。アマルナートババはちょっと照れくさそうな顔を僕に向けた。

「いや〜、いろいろ拾うのが好きでな。ほれっ、今日は馬のくつわを拾ったよ」と言ってバックからとりだし見せてくれる。

「それだけじゃないんだよ」と今度は彼の宝石箱を取り出した。百個以上のきれいな小石で中はぎっしり詰まっている。ほとんどが拾ったものだという。 「どうじゃ。きれいだろう」とその一つ一つを丁寧に紙の上に並べていく。こんな趣味を持っているとは思わなかった。人はやっぱり付き合ってみなければ分からない。


いつもおだやかなアマルナートババであったが、ときには顔をきっとあげ、ちょっと怖い顔を作って僕に向かって説教をする。

「お前、この旅が終わったらもう決してサドゥとは付き合っちゃいけないよ。サドゥには悪い奴がいっぱいいる。ワシやサントスナートババといる分には安全だが、このあと一人になったら、もう付き合っちゃいけない。分かったかな?」

「分かったかな?」というところで彼はとても優しく笑いかける。

ゴームクからの帰り道、アマルナートババは荒涼とした大地を眺めながらこんなことを話してくれた。

「いいかな。ワシは今、サントスナートババと一緒に暮らしておる。そして今は五人でこうして旅をしている。でも、本当はみんな一人なんだよ。旅が終われば五人はそれぞれ別の道を歩き出す。それだけではない。友達も家族もいつかは去っていくんじゃ。もちろんサントスナートババとも分かれるときがくる。そうやってワシは一人で旅を続けるんじゃ。でもな〜、寂しいと思うことはない。何故かというと、ワシはいつもシヴァ神とともに歩いている。たった一人で歩いているようでも、じつはいつもシヴァ神がとなりを歩いているんだ」

日本にもまったく同じような旅がある。四国八十八箇所をまわる巡礼者が持つ金剛杖にも「同行二人(どうぎょうににん)」と書かれているはずである。二人というのは旅する自分と弘法大師空海のことだ。シヴァが空海になっただけの話である。そういえばサドゥも杖にこだわる。アマルナートババの持つ杖にはシヴァの名はないが、代わりに鬼の棍棒にあるようなイボイボがたくさんついている。

四国八十八箇所巡りの金剛杖には「同行二人」のほかにさらに「空風火水地」を意味する凡字が記されている。「空風火水地」とは森羅万象を意味する言葉だが、インドで森羅万象を象徴する神といえばやはりシヴァをおいてほかにない。なんとなく不思議な気がしたが、アマルナートババにそんな面倒な話は通じない。僕は彼と並んで暮れていく山々をしばらく眺めた。

アシュラムに戻るとIさんが石垣の上で元気な姿を見せていた。明日は大丈夫ということである。道は険しいがゆっくり行けば問題ないだろう。サントスナートババも笑顔だがやはりいつもの覇気がない。明日のことはアマルナートババからすでに伝えてもらっている。食事をしたあと少し浮かぬ顔で早々と部屋へと引き上げてしまった。



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