ガンガーサガール
ガンジス川が終わる浜辺

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ガンガーサガール GANGASAGAR(標高0メートル)
ボートから見た朝日
大陸側の船着場
ガンガーサガール島へのボート

ガンジス川最下流の聖地ガンガーサガール。二千キロにおよぶ長い旅を終えたガンジスの流れが海に消えていく場所である。まさに最果ての地であり、ガンジス川巡礼の最後を飾るのにふさわしい。

ただし地図を見れば分かるように、ガンガーサガールに流れ下ってきたのはガンジス川の支流フーグリー川である。本流はカルカッタの北からさらに東のバングラデシュへと流れ、巨大なデルタ地帯を築きながら海へと流れ出る。そのような地理的状況の中でどうしてガンガーサガールだけが最下流の聖地として崇められてきたのだろう。

聖地ガンガーサガールはフーグリー川最下流に浮かぶ大きな島ガンガーサガール島の南の海岸に位置している。ガンジス川最下流の聖地として知られるが、一見したところは広々としたただの海辺だ。

聖地ガンガーサガールが巡礼者で賑わうのは冬の数日間。1月14日(15日かも…)を最終日とした三日間を中心に、ガンガーサガールメーラと呼ばれる巨大な祭りが開催される。ガンガーサガールが人であふれるのはおそらくこの期間だけだ。 何もないガンガーサガールもおもしろそうだが、あまりに閑散として退屈するかもしれない。ここではガンガーサガールメーラを紹介していく。

正直言って、ガンガーサガールは中級向けコースである。一年のうちのたった数日間に十万人をはるかに越える巡礼が押し寄せてくる。しかし困ったことに宿はほとんどない。当たり前だが、たった数日間のためだけに宿を作るわけにはいかない。波止場近くに数軒あるようだが、数ヶ月前には予約いっぱいになってしまうだろう。

ではどこに泊まればいいのか、僕自身も頭を悩ませた。カメラ機材を持っての旅だったから、巡礼にまじって野宿というわけにはいかない。そこで考えたのが、ガンガーサガール島の対岸である。いくつか街があったが、ガンガーサガールに通うならカクディップだ、との情報を得た。カクディップはカルカッタから南へバスで約4時間。直通バスがなければダイヤモンドハーバーで乗り換える。

カクディップに到着したのは祭り最終日の四日前だったが、すでにほとんどの宿は埋まっていた。「今日明日はOKだが、三日後からは満室」などといわれる始末。探しに探してようやく牢獄のような安宿を見つけた。居心地は悪いが仕方ない。

ということで次の日からさっそくガンガーサガールへ。ところが、ガンガーサガールまでは意外と遠かった。行き方を書いておく。

カクディップからバスに乗って港近くまで約10分。降りた場所からボート乗り場まで歩くのが、これまた約10分。対岸までのボートの乗車時間はさらに30分、今度はバスに乗り換えてやはり約30分。さらにバス停から海辺までは歩いて約20分である。

カクディップからガンガーサガールまでの所要時間は合計1時間50分、ボートやバスを待つ時間を合わせると二時間半を越えてしまう。往復すれば5時間以上、まるでサラリーマン生活だ。

さらに困った問題があった。通勤二日目、ガンガーサガールで朝日を見ようと、まだ真っ暗な時間帯に起き出し、犬に吠えられながらも何とかリクシャーを捕まえ、ボート乗り場まで行ったはよいが、ボートの始発はなんと6時半。結局ボートの上から日の出を眺める破目になった。

ガンガーサガールには四日間通ったが、結局三日目の夜は、祭り会場で知り合ったサドゥの小屋で寝た。だからカクディップから往復したのは合計3回、まさに三日坊主だが、ともかくきつい。時間が長い上にどこも巡礼であふれているから、まさに通勤地獄である。

ガンガーサガールはやはり中級コースである。同じような祭りは先に紹介したサンガムでも行われる。サンガムのほうが規模は大きいが、訪れるのは楽である。あえてガンガーサガールに行く必要はないが、どうしても行きたいならカルカッタに部屋を確保したままほとんど手ぶらで訪れるのがいいだろう。

泊まる場所は現地で適当に考える。海岸近くにアシュラムが数軒あるから、頼み込んで適当な場所で寝てしまうのも悪くない。アシュラムならトイレがあるから、それはありがたい。

アシュラムに泊まらないのであればあとは野宿だ。巡礼が大勢寝ているので、命の危険などはあまりない。仲良くなった巡礼たちのとなりで寝させてもらう。 また、その辺に臨時で作られた藁小屋を借りてもいいだろう。これらの場合、トイレはまずないから、夜陰にまぎれて、その辺の浜辺で野糞となる。

日程は自由にとればよいが、たとえば、祭り最終日の前日、1月13日の昼間に現地入りして、最終日の翌日15日にカルカッタに戻るのがおすすめだ。というのは、最終日14日は、とくに午後あたりから、家路を目指す人ですべてがいっぱいになる。まずバスに乗るのが一苦労。さらに波止場でも長蛇の列が続き、かえって疲れ果ててしまうだろう。

僕は最終日の夕方にガンガーサガールを出発し、何とか夜9時ぐらいにボートに乗り込んだが、対岸にたどりついたのはなんと翌朝10時。じつはボートに乗り込んだあたりから海に深い霧が発生し、ボートの運航が突如中止されたのである。 難破船と変わりないような状況で、ほとんど身動きもとれずに一晩を明かした。こんなことなら、サドゥの小屋で二泊すればよかった、と後悔したがどうしようもなかった。

 
 
早朝のガンガーサガール
巡礼たち
サリーを乾かす
インド海軍???
 

聖地ガンガーサガールについて少し書く。バススタンドから巡礼たちにまじって海岸を目指す。チャイ屋や食堂なども少しあるから疲れたらその辺で一泊。聖地のすぐ近くにありながら、魚カレーを食べさせる食堂もある。ベンガルをはじめとする東インドではバラモンであっても魚を食べる。その為、西インドや南インドのバラモンから似非バラモンを蔑まれることもあるが、これは昔からの伝統だ。

松林を抜けるとテント村が広がっている。三日、四日の祭りとは思えないほどの規模である。中心はカピル・ムニ寺院、そこからまっすぐに海岸へ抜けていく大通りがガンガーサガールのメインストリートである。

両側には食堂やチャイ屋、土産物屋が軒を並べ、賑やかな雰囲気。大通りから横へ入っていく道が何本もあり、適当に散策すればよい。カピル・ムニ寺院から海岸までは約10分。車は入れないから歩きのみである。

海岸はインド中から集まった巡礼たちで賑わっている。サドゥや訳の分からない流浪者も多くいて、雰囲気はよい。というか僕は好きだ。

海辺では、一心に浅瀬を探っている人々が多数いるが、彼らは巡礼たちが海へ投げ込む小銭を集めているのである。ちょっと金持ち風のおばさん軍団が祈りを始めようものなら、餓鬼風の子供たちがわっと周囲をとりかこみ、小銭を投げ入れるのを今か今かと待ち構える。別に襲い掛かるわけでもないから、なんとも平和な風景である。

朝と夕方の風景が美しいことは言うまでもない。なるべく早起きして、朝日を眺めたい。ガンガーサガールメーラは訪れるのは大変だが、祭り自体は平和的である。ボランティアによる警備もしっかりしており、警察も友好的だ。それに巡礼たちの雰囲気もどこか優しい。あやしげな流浪者がじっと海を眺めていたりするのも哀愁がある。それはやはり、この地が最果てだからだろうか。どこまでも広がる海が、物言わず巡礼たちを包み込んでいる。

 
 
夕暮れの海岸
夕暮れ風景
 



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