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第一章 森へ

 
 
 
デカン高原という名前にひそかな憧れと畏れに似た感情を抱くようになったのはいつ頃のことだろう。7、8年前、ある老サドゥー(修行放浪者)からデカン高原での話を聞いたのがきっかけだったような気もするが…。彼は当時、すでに30年以上もインド中をほっつき歩いていたが、デカン高原でとある恐怖体験をしたという。そのいきさつはどこかで書いたような気もするが、簡単に繰り返すと、…

…あるとき、このサドゥーがデカン高原のとある森の中を歩き回っていたところ、素っ裸の先住民グループに襲撃され村に拉致監禁されたという。先住民グループは彼の数少ない財産をすべて巻き上げた上、その体を丸太か何かに縛り付けた。当然死を覚悟したらしいが、死刑執行の直前になって何とか許されたらしい。どうして許されたのか、と聞くと、サドゥーは「そりゃ〜、ワシの人徳じゃよ」といっていたような記憶があるが、確かに彼は気のいいサドゥーだった。それにしても、このサドゥーを襲撃した素っ裸の先住民グループとはいったい何者なのだろう?

それから約五年、インドを旅する中で、いくつかの先住民か出会ったが、先住民といってもいろいろあるわけだし、第一、裸の先住民に出会ったところで殺されたら写真も撮れない。などと考えていた頃、ロンリープラネット・インド編を眺めていて目をつけたのがパチマリだった。当時は英語版しかなかったので漠然としたイメージしかつかめなかったが、そこでは、周辺のジャングルでは先史時代の絵や謎の洞窟が見られることそして、春にシヴァ祭が盛大に行われ、大量のサドゥーと、そして先住民がやってくるということ、などが記されていた。チャンスがあれば一度行きたい、と考えていたのが3年前に実現した。

パチマリは現地のガイドブックでは一応避暑地としての扱いを受けている。標高1000メートルほどあるのでたしかにそうなのだろうが、その意味で言えば、非常に寂れている。例によって、昔、イギリス人によって発見(?)されたというエピソードが唯一の自慢のようになっているだけだ。

さて、パチマリを訪れたのは二月終わり、ロンリープラネットに記されていたシヴァ祭が行われる数日前のことだった。すでに町は先住民を含む多くの巡礼で湧きかえっており、その後すぐにシヴァ祭に突入したのだが、そのことはとりあえず後回し。まずはパチマリの主役(といっても実は絵のことはほとんど知られていない)である先史時代の絵が眠る太古の森に潜入したい。

パチマリ自体はイギリス植民地時代に出来た町であり、規模も小さいからちょっと歩けばすぐに森に行き当たる。森自体は茫漠としたものであるから何も知らなければどう歩けばいいかも分からない。最初に一人で訪れたときは結局道に迷い、絵も見つけられずに途中で引き返した。狭い谷間で先住民らしき人々(素っ裸ではない)と遭遇し、ちょっと怖くなったというのもある。

次の日、ガイドとともにあらためて森に入った。 ガイドはカルカッタで植物学を学んだ人だったが、僕はもとよりそういった話に興味もないのでその内容はすべて忘れた。それより、歩いている最中ずっと気になっていたのが虎のことだった。歩くに従い深くえぐれていく峡谷には「けだもの」の気配が感じられて何だか気味が悪い。パチマリに来る途中の道路にも、「虎に注意」の標識があった。ガイドはただのインテリなのでいざというとき頼りになりそうもない。しかしガイドが言うには、「虎よりヒョウが怖い」らしい。虎は目が合えば逃げていくが、ヒョウは突然背後から襲い掛かって一瞬のうちに相手の息の根を止めるのだという。

それにしても、虎やヒョウがうろうろする森を同じようにうろつくというのは何とも不思議な気分で、旅はこんなところから始まるんだろう、というごく単純なことに想いを馳せた。インドでは今も歩きの旅というのは普通に行われていて、例えば自動車道であっても、いつ野獣に遭遇するかも知れないし、盗賊集団や危険なヨーガ行者なども数知れない。金がなければ宿泊場所も限られ、野宿も珍しくないだろう。インドの夜の闇は深く危険である。旅行者は何一つ保障されていないが、そうであるからこそ神とともに歩む巡礼なのだと思う。パチマリのシヴァ祭にも多くの先住民が歩いて巡礼に来ていたが、道中ジャングルで虎に襲われた人だっていたかもしれない。

さて、森の中に眠る原始絵画の紹介は次回から。
 

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