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  (シク教の聖地アムリトサル黄金寺院については「シク教の真髄(上)」へ)

  シク教の歴史は15世紀に始まる。パンジャブに生まれたナーナク(1469〜1539年)が開祖であった。ナーナクが生まれた頃のインドはムガル朝によるインド支配が強まった時代であり、ナーナク自身もムガル朝に仕える役人であったが、のちに放浪の旅に出て、インド中のヒンドゥー聖地やアラビア半島のメッカなどを巡って独自の思想を育んだ。その思想はある意味ヒンドゥーとイスラムの折衷であると言えるかもしれない。厳格な偶像崇拝の否定や平等主義はイスラム教の影響が強いが、ヒンドゥー教のバクティー思想からもあきらかに影響を受けている。バクティーとは、一心に神に祈ることを最上の宗教行為とする中世のヒンドゥー思想だが、ナーナクもまた複雑な宗教儀式を否定し、一般に開かれた宗教を目指した。

 シク教がほぼ現在の姿に定着したのは18世紀はじめである。詳細は書かないが、その2百年のあいだにいくつかの風変わりな規則が定められた。主なものとしては、ターバンの着用義務、タバコの禁止、ひげ、および髪の毛を切ったり剃ったりすることの禁止、などがあげられる。これらの規則が定められた理由は複雑である。たとえばターバンに関しては、シク教徒の母体となったのが西の砂漠からやってきたジャット族であった事に由来すると思われる。彼らにとって、ターバンは強い陽射しを避けるための必須の道具であった。ただし、その着用を義務付けたものは、ときの支配者ムガル帝国からの弾圧と戦う為に武装集団化したシク教徒の意気を鼓舞する意味合いが強かったと想像できる。タバコの禁止についてはヒンドゥーのサドゥー(行者)が大麻を常用している事と関連があるのかもしれない。大麻の常用は現実感を喪失させ、ときには人間性をも失わせるきっかけともなる。また、イスラム教徒がタバコを愛用することにたいする反感もあったかもしれない。逆にシク教は飲酒を否定しない。飲酒はイスラム教が最も嫌うものであり、挑発ととれなくもない。立派なひげは彼らシク教徒のシンボルである。規定では、あらゆる体毛を切ることが禁じられており、男たちは生まれてから一度として髪の毛を切ることはない。その為、普段は長い頭髪をグルグル巻き上げてターバンで覆い隠す。髪の毛を切らない風習はおそらくサドゥーを真似たものと想像できるが、確実な話ではない。シク教徒とサドゥーの文化が共通の土壌を持つ文化と思えない。そもそもシク教では出家という発想がまったくない。だからサドゥーと同じ習慣を持つことは普通ありえない。ただし、飛躍して考えるなら、これらの習慣はシク教徒の男たちにとっての内なる出家だったとも想像できる。彼らの規則はどれも過激なものだが、それゆえに彼ら同志の結束を高める役割をも果たしている。そして同時に、彼らは自ら逃げ道を封じたととも考えられる。

 シク教の大きな特徴をくりかえすと、強烈な個性の顕示と、まるでそれと相反するかに思える寛容な性質である。その為、彼らはあらぬ誤解を受けやすい。その紳士的な態度も慇懃無礼と映るかもしれない。しかし歴代のシク教指導者たちはそれも見越してこの新たな宗教を作り上げてきたようにも思える。というのは、宗教の瓦解は結局、集団の内なるところから始まるものだ。奇妙とも思える風習も逆に集団の結束を強め維持する働きを持つであろう。彼らはつねに社会の視線を浴びて暮らしている。たとえターバンを脱ぎ捨てても、その下には腰まで届くほどの髪の毛がとぐろを巻いている。もしシク教集団に決定的な崩壊が訪れるとしたら、それは彼らがターバンを脱ぎ捨てひげを切るときである。

 シク教の指導者たちは非常に理論的、なおかつ政治的な判断に基づいてこの宗教を作り上げてきたように思えてならない。こう書くとまるでシク教を貶めているように受け取る人もいるかもしれないが、そもそも理論的で政治的な思考はインド人の最も得意とするものである。シク教の標榜する思想はあきらかにヒンドゥー、イスラム、あるいは仏教をも噛み砕いて咀嚼してしまおうとする性質のものだ。そうした壮大な理想を形にしたものが黄金寺院であった。







サドゥ 小さなシヴァたち

インドの放浪修行者
サドゥの本へのリンクです。
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