サドゥ本「サドゥ 小さなシヴァたち」を直接誰かに見てもらうと、思いのほか多くの質問を受けます。質問に答えながら思ったことは、サドゥの知名度というのは思っていたよりもずっと低いということです。そして、IT大国インドに、まだこんな人たちが存在しているのか、ということを誰もが不思議がります。
インドに仙人のような人々が存在することは、多くの人がなんとなく知っているようですが、それも多くは過去の話だと思われているようです。しかし実際には、インドには何十万人、あるいは百万人を超えるサドゥが存在し、悠々自適なサドゥライフを堪能しています。
というわけで、サドゥの存在をさらに知っていいただきたいと考え、サドゥQ&Aというのを2ページ分作りました。
質問の部分は、これまで実際に受けた質問を中心に、さらにこんなことを質問されるのではないかと、こちらで勝手に想像して付け足しました。あまり難しいことは書かずに、一般的な受け答えを想定して書いています。サドゥの姿形については、「サドゥ本紹介ページ」などをご覧ください。
> サドゥとはいったい何ですか?
サドゥという言葉は「よい人」を意味し、俗世間を離れた出家者全体を指しますが、サドゥ本に登場するサドゥの多くは古代の苦行者の系譜に連なる人々で、こうしたサドゥだけが真のサドゥだとする考え方もあります。
苦行者たちの末裔は、別に「リシ」あるいは「ヨギ」などとも呼ばれることもあります。「リシ」とは聖仙、「ヨギ」とはヨーガの達人を意味します。
>仙人のような人たちですか?
苦行者系サドゥはほとんど仙人といった風貌です。仙人のルーツはサドゥにあるという説もあります。
>人間国宝とかには指定されないのですか?
仙人のようなサドゥをみんな人間国宝にしていたらきりがなくなります。それにサドゥの側も嫌がるでしょう。いろいろ面倒くさいだろうし…。
>サドゥは今もいっぱいいますか?
たくさんいます。上にも書いたように、最低数十万人はいます。あるインド人は1000万人いると言っていました。登録制ではないので、実数は不明です。
>サドゥの歴史はどれぐらい古いのですか?
最低3000年以上の歴史はありますが真実は誰も知りません。おそらく5000年を下ることはないと想像しています。
>サドゥになるための学校があるのですか?
サドゥは基本的に、師(グル)と弟子(チェーラ)との関係から生み出されます。サドゥになりたいと思うと、まず師となるべきサドゥを探し、許されればその日から彼はサドゥとなり、師とともに庵で暮らし、随時お供しながら旅に出るようです。
学校というものはありませんが、インド中にアシュラム(修行道場)があり、ここからサドゥとしての活動をスタートする人たちもいます。
>誰でもサドゥになれますか?
師から許しがあれば誰でもなれます。また、師がなくても自称サドゥにはなれます。
>自称サドゥもサドゥなんですか?
個人的にはそう思っています。たとえば聖地のアシュラム(修行道場)などで、サドゥだけに食事を無料提供する場合、自称サドゥたちもみんなと一緒に食事をしています(宗派別の食事は別です…)。
>何歳ぐらいでサドゥになりますか?
何歳でもなれます。捨て子を拾ってそれをサドゥとして育てる師匠もいるようです。また多くの本格的サドゥは青年期か遅くとも中年期はじめにはサドゥになっているようです。
>古代インドの伝統で、遊行期というのがサドゥに当たるのですか?
人生を四つに分けた四住期という考えが古代インドから続いていて、人生を「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」に分けて理想的な生活を送るようにと諭しています。
そのなかで、サドゥとしての生活を人生最後の「遊行期」に区分する人がいるようですが、サドゥのルーツでもあるシヴァ派ナガサドゥ等においては、四住期という考えはたいした意味を持っていません。多くは「家住期」などを経ることなくサドゥになりますので…。
一方、「遊行期」として、サドゥの人生を送る人々が現在も存在しています。サドゥということではどちらもサドゥですが、苦行者タイプと遊行者タイプは少し別物だと考えるほうが自然かもしれません。
ちなみにサドゥ本に登場するサドゥの多くは苦行者タイプです。
>サドゥになれないカーストというのはありますか?
サドゥはすべてアウトカーストということになるのでとくにないと思います。
>サドゥになる以前のカーストはその後の活動に影響しますか?
直前の質問への答えと矛盾するような表現ですが、影響する可能性はあります。 ハイカースト出身者や金持ち出身者であればやはりコネがあるので、有力な地位を得やすくなる場合があります(頭脳や体格からして違ったりします)。
ただし、それはサドゥとしての本分とは何の関係もなく、庵住まいも出来ずに、逆に面倒くさい生活になるかもしれません。
>サドゥになれと勧誘されませんか?
サドゥを追い回して写真を撮っていると、「そんなにサドゥがいいならお前もサドゥになれ!」と何度か迫られたことはありましたが、一般的には勧誘行為等はまずありません。
>サドゥがサドゥをやめることは可能ですか?
もちろん可能です。やめる人もたくさんいます。また、半サドゥのような状態で生きる人たちもいます。
>日本人のサドゥもいますか?
何人もいます。直接会っただけでも3人います。もちろんその他の国のサドゥもいます。
>サドゥにはならないんですか?
サドゥになる興味なんてまったくないといえば嘘になりますが、まずありえません。
>サドゥってどうやって食べているのですか?
人によって、あるいはサドゥの宗派によってかなり違います。
本格的なサドゥ、つまり苦行者タイプのサドゥは一般的に庵を持ち(複数持つサドゥもいる)、村人や巡礼からの寄進や自分が管理する小さな祠の賽銭で食べていきます。一定のお金が貯まれば遊びをかねて旅に出るようですが、旅先でも同じような手段で金を稼ぎます。
(庵住まいのサドゥであっても、彼が有力者であれば、横の繋がりを通して、アシュラムから金が流れているようなこともありそうです…)
一方、遊行者タイプのサドゥたちは乞食の列に加わって金を得ることもあります。また食に関しては、聖地にあるダラムシャラー(僧院)やアシュラム(修行場)では、サドゥはただ飯を得ることが出来ますので、聖地にたどり着けば一安心といったところではないでしょうか。
>サドゥの庵はどんなところにあるのですか?
たいていは聖地のはずれ、とか、村はずれの祠の近く、とかが多いようです。洞窟に住むサドゥもいます。野獣しか住んでないようなジャングルとかにもあるそうですが、まだ見たことがありません。
>勝手に庵を作っていいのですか?
場所代を払うわけではないので、場所さえわきまえれば基本的には自由のようです。
ただの村であれば、村人に一声ぐらいはかけると思いますが(それにお布施がなければサドゥも生きていけません…)、村人の側から見ても、サドゥが住んでいるということは、神に見放されていない証明のようなものなので、それほど嫌な顔はしないようです。
>サドゥは何か説教のようなことをするのですか?
これまで説教をされたということはほとんどありません。宗教的な話を振ってくるサドゥはたまにいますが、そうしたサドゥほど被写体としては魅力を感じなかったりします。
>サドゥは毎日何をしているのですか?
よく分かりませんが、だいたいチャイを飲んで、大麻を吸って、飯を食っての繰り返しです。あとは旅したり、洗濯したり、信者が来れば多少相手をし、個人的に世話をしている祠などがあれば掃除し、賽銭を持ち帰ったりします。ただ、さまざまなタイプのサドゥがいるので一概には言えません。
>サドゥは結婚をしますか?
基本的にはしません。
女性連れのサドゥもいないわけではないですが…。また、一度だけ子連れの(格好は本格的な)サドゥを見たこともあります。実子かどうかは確認していません。
>じつは隠れて性的な行為をしているのではないですか?
本格的な(シヴァ派)サドゥは非常に目立つ格好や行動をしているので、例外をのぞいてまずありえません。
一般的な説としては、サドゥ(シヴァ派であるナガやナートの一部)は性的欲望をヨーガの力で制御し、さらに昇華させているので性欲を感じることさえないということです。とくに禁欲というわけではないところが、他の諸宗教との大きな違いなのではないかと思っています。
>女性サドゥも存在しますか?
存在しますが、多くがアシュラム(修道院)で生活しているようです。旅暮らしの女性サドゥもたまにいますが少数派です。
>サドゥは危険ですか?
多くは危険ではないと思われますが、サドゥの世界は個人主義なので、人によります。
また、危険でなくても、横暴であったりわがままであったりするのは、特にシヴァ派苦行者タイプのサドゥについては普通のことです。
>サドゥは臭いますか?
体臭ですか。臭いと思ったことはほとんどありません。灰を体に塗っているサドゥからは灰の匂いがします。
>サドゥ生活は楽しいのでしょうか?
被写体として魅力的な何人かのサドゥに質問した限りでは、「楽しい」「幸せ」だと答えていました。
>サドゥはみんな大麻を吸っていますか?
シヴァ派サドゥ(苦行者タイプ)の多くが吸います。ビシュヌ派サドゥ(遊行者タイプ)でも吸う人はそこそこいます。
>大麻は法律で禁止されているのではないですか?
インドで大麻が禁止されてから約20年です。 禁止された理由は国際的な問題だと聞いていますが、インドの宗教儀礼で大麻が使用されてきた歴史は数千年におよびます。
現在、一部の寺院や地域で、(州政府が公式に販売している)大麻を使用することを公に認められているほか、サドゥによる大麻の吸引は暗黙の了解として認められているような状況ですし、聖地では警官自らサドゥの庵におもむき大麻を吸わせてもらっているようななんとも平和な光景が見られます。
>大麻は体に悪くないのですか?
詳しくは知りませんが、中毒性もなく、逆に健康によいとも言われています。吸いすぎると多少ナマケモノになると思いますが…。
>仙人のように何も食べずに生きるサドゥも存在しますか?
噂ではいるようです。実際に会ったサドゥでは、果物と水だけで生きているというサドゥに二人会いました。本人の申告なので本当かどうかは分かりません。うち一人は、一年以内のうちに水だけの生活に入ると言っていました…。
>サドゥは普段何を食べていますか?
普通のインド人とあまり変わりません。野菜カレーとご飯、それからチャパティー(インドのパン)などです。結構いっぱい食べています。
>サドゥは自分で料理するのですか?
庵で暮らすサドゥは自分でします。料理がうまいサドゥもたくさんいます。
>サドゥは歩いて旅するのですか?
ヒマラヤだと歩いて旅する人もいますが、公共機関があれば普通に列車やバスを使ったりもします。
>列車やバスはサドゥの場合は無料ですか?
そんなことはないです。長距離移動の場合はちゃんとチケットを買っています。近距離の列車や聖地近くのバスなどではタダ乗りしている人もたくさんいますが、普通のインド人もよくタダ乗りしています…。
(追記)
ある人から、サドゥは、国鉄2等自由席は無料では、との指摘を受けましたので、ここに追記しておきます。
>タダ乗りがばれたら罰金ですか?
一応はそういう規則だと思いますが、金のないサドゥから何も取ることは出来ないので、次の停車場などで普通に追い出されます。
サドゥと車掌が揉めている光景もたまに目にします。田舎ではそのまま居座ってしまうサドゥもいます。
辺境の線路上で赤い旗を振り回して、列車を止めさせ、しかもタダ乗りしてしまうようなツワモノもいるようです。
>まわりの乗客は怒らないのですか?
怒る乗客もたまにいますが(怒っても誰からも相手にされませんが…)、インドの列車は遅れるのが普通なので、ほとんど誰も気にしません。
モメゴトを笑って眺めている人のほうがはるかに多いでしょう。
金がない人は金を払わなくてもいいという考え方が、インドではまだまだ健在です。
>観光サドゥというのはニセサドゥですか?
写真を撮らせて一枚いくらで商売しているサドゥがとくにカトマンドゥーなどに多く存在しますが(今は不明…)、彼らもまた自称も含めてすべてサドゥです。
宗派もさまざまで、しっかりとした修行をしてきたサドゥもいます。
>サドゥが商売をすることはありますか?
自称サドゥをふくめれば、商売しているサドゥもたくさんいます(サドゥといえるかどうか、かなり微妙な人も多いですが…)。
下賎なものでは、聖地の前で賽銭用の小銭両替商をするもの、その他、アクセサリーを売るもの、占いをするもの、チャイ屋をするものなどいろいろいます。
本格的なシヴァ派サドゥで商売をしているのはほとんど見かけませんでしたが、一部の黒魔術系サドゥにあやしげな薬を売りつけられそうになったことなどはあります。
>サイババってサドゥですか?
広い意味でははサドゥだと思います。 サドゥ世界の本流から見れば傍流ということになりますが…。
その他、ラマナ・マハリシ、ラーマ・クリシュナ、ラジニーシ(和尚)、クリシュナムルティー、さらにはマハトマ・ガンジーといった有名な聖者たちも広い意味ではサドゥですが、あくまで傍流だと考えられます(たぶん)。
サドゥ自身からも、こうした聖者たちをとくに尊敬するといった話は聞いたことがありません。話題にものぼりません。(一度だけ、あるナガババから「今、和尚アシュラムにいる」と電話がありました…)
サドゥQ&A(その2)に続く…。
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