chaichai > フォトエッセイ > ネパール山の村を歩く(1)

ホーム

フォトギャラリー

写真で見るインド

インド旅の雑学

フォトエッセイ

ブログ

プロフィール

桃源郷をさがし歩いて…

ネパール 山の村を歩く(1)

フォトエッセイ メニュー


先日、ネパールのモノクロ写真を40枚アップした。写真を始めて2年目
の作品だが、掲載するための様々な作業をするなかで、過去の記憶が鮮やかによみがえってきた。

滞在中、カトマンドゥーを基点にいくつかのトレッキングをしたが、なかでももっとも印象深いのは、カトマンドゥー近くの村からポカラまで歩いたときのことだった。ポカラというのはアンナプルナを望むネパール随一の観光地で、普通の旅行者はカトマンドゥーから7時間ほどかけてバスで訪れるのだが、僕はそこを18日間かけて歩いたのだ。もちろん同じ道ではなく、バス道から10キロ以上北方を通る旧街道を歩いての旅だった。その間、南方のバス道路から数本、旧街道が通る比較的大きな村に車道が続いているが、それを除けば、険しい山道が村と村とをつなぐだけの、まるで昔話のような世界がえんえんと続くのだ。

この旧街道は一人で行ける世界ではない。ヒマラヤを歩く有名なトレッキングコースとは違い、外国人用の山小屋などはまず望めない。宿泊はすべて民家か、あるいは街道を歩く現地人用の簡素な宿泊施設で、これは大概茶屋を兼ねている。いずれにしろ、ほとんどは看板も掲げていないようなところばかりで、ベッドなどもなく、土間に直接寝袋を広げて寝るような粗末な場所だ。当然英語も通じないから、ガイドと一緒でなければすぐに途方に暮れてしまうだろう。

僕が雇ったガイドはまだ半人前のポーターで、英語は片言だが、若いし仕事の飲み込みが早かった。確か、一日7ドル、彼に直接支払っていただけだが、朝、お茶を持ってきてくれるぐらいサービスが良かったし、かわいい女の子を見つけると、撮影の協力も惜しまなかった。思い返せば、彼の協力なくしてこれらの旅はなかったが、欠点もあった。いや、それは欠点とは言えないのかもしれないが、彼はともかく女の子が好きで、ある旅では、ついに夜這いをしてしまった。僕はそんな彼を通じてネパールの山の村に急速に接していった。

さて、旧街道の旅の道中、もっとも頻繁に立ち寄ったのが茶屋だった。だいたい一時間に一度ぐらいの割合で茶屋があったから、僕らはほとんど水も持たずに旅行していた。街道は歩く人も多く、特に賑やかではないにしろ、荒涼とした原野が続くヒマラヤではない。旧街道は何度となく峠を越えていくものだから、茶屋も当然その周囲にあった。どんな雰囲気かというと、それは多分、江戸時代の東海道や中仙道のようなものだと僕は勝手に理解している。茶屋には地元の旅行者がたむろしていることも多かった。行商人も多く、それは言ってみれば富山の薬売りのような存在で、各地の話を自慢そうに語るのが好きだった。それは商売の話から始まり、時に幽霊譚にまで発展していく。

男女間の話も多かった。夜這い、駆け落ち、近親相姦まで、話は尽きることがない。ガイド君が燃え上がるのも無理がない。また、茶屋を切り盛りする女性の中には、ちょっと怪しげな雰囲気を漂わす人もいた。この街道ではないが、昔色恋沙汰で村八分にあい、今は村のはずれで茶屋を営業している女性もいた。トレッキングガイドの中には、仕事のたびにそうした茶屋の女性のもとへ通う人も多かった。まあ、ガイド君もその一人だったといえるかもしれない。一見素朴に見える山の村は、実は結構なまめかしい表情を随所に見せる。

ネパールの山の村は、また一方では、涙が零れ落ちるくらいに懐かしい場所でもあった。僕は子供の頃、夕日が見渡せるだだっ広い丘の上でずっと遊んでいた。僕はそこを「山」と呼び、ずっと心の拠りどころにしてきた。ネパールの山の村は、まさに「山」の遊び場だった。夕暮れ時、どこからか少女たちの歌う声が聞こえてくる。ネパールの少女の美しさは写真を見てもらえば十分で、ほかに説明のしようもない。僕は夕日を眺め、山並みを眺めながら、その美しい時間をすごしていた。時には、片手に地酒のロキシー(焼酎)を持ち、真っ暗になるまで飲み続ける。たまにはチャン(濁り酒)もいいな…、と思いながら。薪が燃えるいい匂いがあたりに漂い、犬の鳴き声が悲しげに山に響き渡る。ほとんど何も見えない闇の向こう、はるか上のほうに灯がいくつか見える。あんなところに人が住んでいるのか、と僕は一人で感心していた。ところでガイド君はといえば、ウォークマンでヒンディーポップスを聴きながら踊っていたりする。彼は実はまったくの下戸で、それが一番の欠点だったのでは、と今では思っている。(次回に続く…)(2004年秋)

インド、ネパールなど南アジアの写真chaichaiへ



(C)shibata tetsuyuki since2007 All rights reserved.
全ての写真とテキストの著作権は柴田徹之に帰属しています。
許可なく使用および転載することは禁止です。ご留意ください。