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インドを代表する飲み物といえばやはりチャイである。チャイはこのホームページの名前にもなっている。ちなみに「chaichai」としたのは、鉄道駅のホームなどで、チャイ売りたちが「チャイチャイ、スペシャルチャーイ」などと、繰り返し叫ぶことから名づけた。

チャイの歴史はそんなに古くない。19世紀、英国統治領時代に、彼ら向けに生産していた紅茶のなかの、ダストと呼ばれる粗悪な茶葉を生かす形で庶民のなかから生まれた。チャイという名称は当然中国の「チャ」と同じ語源だが、ネパールやベンガルでは、「チャイ」ではなく、「チャー」である。

日本でもチャイを飲ませるインド料理店がたくさんあるが、味はいまひとつだ。もっとも、インドでも中級や高級の店ほどつまらないチャイが出てくる。ひどい店になるとティーパックのお茶が出てくる。これが上品なのだと勘違いしているのなら、つまらない話だ。本物のチャイを知るには、街角の薄汚い(その必要は必ずしもないが)一角にあるチャイ屋をのぞいてみよう。


カルカッタで見つけたチャイ屋。お父さんが揚げ物、息子がチャイを担当している

では、チャイ屋の熟練の技法を見てみよう。チャイ屋のほとんどは、もう何年も洗っていないような鍋を一つ持っている。そこに牛乳と水とダストと呼ばれるもっとも安いお茶、それにショウガを叩き潰したかけら、さらに普通は少量のスパイス(カルダモン、シナモンなど)をいれ、ぐつぐつと煮込む。火は全開だ。あふれかけると、鍋を少し火から遠ざけ、ぐるぐる回して温度を下げる。それを何度も繰り返すことにより、お茶の香りとそのほかの材料が、渾然一体となった濃厚なチャイが生まれるのだ。チャイ屋はこれを毎日何十回、何百回とやるので、もはや洗い落とせないくらいに茶渋などが鍋にこびりつくが、これが例えば、ヌカ床のような味わいを生む。一見不衛生だが、これだけ煮沸すればまず大丈夫だ。

最近はあまり見ないが、伝統的なチャイ屋では素焼きのカップを用いて客に飲ます。その姿がなんともいえずいい。適当に作ったものなので、はたして地面にまっすぐ立つかどうかもあやしいほど曲がっていたりする。しかし、それはインドの大地に立つ、土と牛の糞を混ぜ合わせて作る素朴な民家を思わせる。素朴な土の香りが、チャイの味を一段と味わい深いものにしてくれるだろう。

この素焼きのカップは決して再利用はしない。客はチャイを飲んだら、これを地面にたたきつけて割る。この習慣は、異なるカースト間で同じカップを用いるわけにいかないという、浄不浄の観念によるものだ。いずれにしろ、素焼きのカップは一瞬にして役割を終え、元の土へと帰っていくのだ(ただ、最近はプラスチックの容器が、それに取って代わろうとしている。そしてインド人は、これらの容器をやはり道に捨ててしまうので、街はいよいよ汚くなっていく)。

チャイ屋というのは、たいがい街の真っ只中の路上にある。安食堂でもチャイは飲めるが、暗くじめじめしたなかで飲んでいても楽しくないし、また、退屈でもある。その点、路上のチャイ屋はいろいろと楽しめる。

インドという国は、付き合うといろいろと大変なことも多いが、ただ漫然と見ているだけならこれほどおもしろい世界はない。街中にはさまざまな人々、動物、そして乗り物が、それぞれの流儀で、めちゃくちゃになって暮らしている。まさに人生劇場、いや、動物もいるから、生き物劇場とでもいえばいいのか、いずれにしろ、そんな世界が街中に展開している。そしてチャイ屋というのは、そのうってつけの観客席というわけだ。料金はたった2.3ルピー(10円以下)。おかわりすれば、倍楽しめる。

インドでは、移動などで朝早く起きることも多いが、そんな時もまずチャイ屋に向かう。バス停や鉄道駅の近くにも必ずある。真っ暗闇のなかでも、そこだけは裸電球がともっていることだろう。近寄ると、ショールを巻いた男たちが、裸足で寒そうに震えていたりする。こんな朝には、一杯のチャイが体をぽかぽか温めてくれる。よし、今日も旅をしてやろうという気分になってくる。インドの旅はチャイに始まりチャイに終わるのだ。






サドゥ 小さなシヴァたち

インドの放浪修行者
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